スコラスは倒れた。

バリクスは座ってアメジストの石を削っている。断腕されていない腕は弱くなり、正確性にも欠けてしまったが、手のひらに石が押し付けられている感覚に心地良さを感じている。手からナイフが滑り、指を切った。「痛!」と言った瞬間、扉が開いた。バリクスにはプライバシーがない。特に欲しいとも思っていない。バリクスは、ただ女王に仕えるだけだ。

ぺトラ・ベンジが立っていた。エーテルでいっぱいになった空気を避けるため、マスクをしていた。「王子がお話したいそうだ」と伝言し、いつものマスクをつけず、血を流しているバリクスを見て、くすっと笑った。ぺトラはバリクスの情報を頼りにしている。バリクスはぺトラの愚かとも思えるリスクの高いやり方や虚勢にうんざりしており、時々ぺトラの命を危うくさせる情報を吹き込むことがある。ぺトラもこのことに気づいていた。そして、ぺトラとバリクスはお互いに手を取り合って任務を遂行しなければならなかった。任務のパートナー。バリクスにとっては、これが1番深い交流だ。ぺトラは頭がいい。何度でも蘇ることのできるガーディアンを送り込んでいた。

「手が滑ったみたいだな」と、ぺトラは言った。

バリクスは血の出ている手でアメジストの石を持ち上げた。リーフの宝石だ。「もっと輝かせようとして、怪我をした」と返答した。

ぺトラは遠い目でこの宝石を見つめた。何が見えているのだろう?バリクスにはぺトラに見えているものが分かっていた。その光景を恐れていること、そして前に突き進む活力にしていること。アウォークンはバリクスが恐れる力と融合した存在。女王のウィッチ、ぺトラを育てたあのウィッチ達に近寄られるくらいなら、残っている腕を切り落とす方がましと考えている。

この不公平さで思わず叫びたくなることがある。何故自分にはすがれるものがないのか?ハイヴには神、ベックスには広範囲に広がる時間をも歪める心、カバルには援軍があるというのに。アウォークンは星に囁きかければ、星が囁き返してくれる。木星の声、暗闇の歌。ガーディアンには大いなる機械の祝福が与えられた。大嵐の前もそうだったのだろうか?フォールンの英雄達は、ゴーストと共に光を放ちながら恐れずに戦場を歩んでいたのだろうか?何故人類の失われた栄光を取り戻す話は語られるのに、バリクスの一族、かつて尊厳と法を司っていたハウス・オブ・ジャッジメントの失われた栄光については何も語られないのか?

何故フォールンはそうやって強くなれないのか...?フォールンにはそんな強さはない。バリクスにもない。この怪我と同じだ。悲しい現実しか見えないのだ。それではただのドレッグと同じ。これ以上落ちていかないようにしがみついているだけだ。

スコラスのように、共に戦って絶滅の危機から逃れようとする強さもあったが、結局成功しなかった。ハウス・オブ・デビルズのプライムは死んだ。ハウス・オブ・ウィンターの指揮系統は壊滅状態になった。ハウス・オブ・エグザイルはハイヴの脅威から必死に身を守ろうとした。この数年で、フォールンは多くのものを失った。その周りで様々な変化が起こっている。この太陽系に神や強大な力が集まっている。古代の機械が目を覚まし、古代の骨が囁くようにおだててくる。新しい道を見つけなければ。

「マスクを着けろ」とぺトラは言った。「待たせると王子の機嫌を損ねることになるぞ」

「俺達とは大違いだな」とバリクスは穏やかに言った。指の怪我はそのうち治る。エルダーズ・プリズンでの仕事は戦闘を通して裁きを下し、観客を集めてリーフの漁り屋や兵器庫との関係を強くする。ハウス・オブ・ジャッジメントの再建に近づくことができる。スコラスの怒りも収まった。フォールンはまだ平和的、法的な習慣を受け入れられないだろう。生き残り、ギリギリのところでしがみついているだろう。「俺達は辛抱強いな」

ぺトラは哀れみと軽蔑でバリクスを見下しながらも、何故かそこまでの嫌悪感を持っていなかった。

バリクスはマスクを装着した。